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6月22日にレンタル開始になった『ケイヴ・フィアー』という未公開映画がある。SFマガジンに短評を書くために一足先に見せてもらったのだが、これがなんと "Abominable" という雪男ものの新作UMA映画だった。
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日本語解説
http://www.artport.co.jp/library/in_video/cave_fear.htm
監督・脚本・原案のライアン・シフリンというのは、何を隠そう映画音楽の大家ラロ・シフリンの息子で、これが長篇デビュー作。見るからに低予算の自主製作映画で、ライアンの演出も冴えているとは言いがたいが、設定とストーリー展開にそれなりの工夫があって、意外や意外、最後まで飽きずに見てしまった。
事故で歩けなくなった車椅子の男が、山奥の別荘地にやってくる。向かいの山荘には若い女たちが泊まりに来ているのだが、その1人が毛むくじゃらの謎の怪物に惨殺されるのを、男は窓から見てしまう――という物語は、ずばりアルフレッド・ヒッチコックの『裏窓』のモンスター映画版。
そんな強引な……と笑ってしまうが、女たちへの警告が届かなかったり、やがて男の存在も気づかれてしまったりという展開がそれらしく、最後は、車椅子の男がどうやって雪男と対決するのかが見せ場になる。
場面と登場人物を限定した理にかなった低予算映画だが、父シフリンの担当した音楽だけが妙に豪華だったり(仕上げはスカイウォーカー・サウンド!)、ランス・ヘンリクセンとジェフリー・コムズがゲスト出演していたりという楽しみもある。
『裏窓』の本歌取りといえば、4月に全米公開されて意外なヒット作になった "Disturbia" が、ティーンエイジャー版『裏窓』ということで話題になったばかり。残念ながら日本公開は未定のようだが、こちらは自宅謹慎の裁判所命令で家から出られない高校生が、隣家の殺人事件を窓から見てしまうという話らしい。
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一方、モンスター・パニック映画で『裏窓』といえば、『ミミックIII』も忘れられない。難病で部屋から出られない青年が、毎日眺めていたアパートの中庭に奇怪な人影を見てしまう、という物語。『ミミック』番外篇としてはなかなか悪くないアイデア・ストーリーだった(そういえば、これにもランス・ヘンリクセンが出ていたなあ)。
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『裏窓』のプロットを利用した映画はまだまだ他にもありそうだが、とりあえず思いつくのはこれぐらい。いろいろなジャンルの映画に転用が効くと思うのだがどうだろうか。
投稿時間 : 18:01 個別ページ表示 | コメント (0) | トラックバック (0)
1978年、15歳のときに『ダーティハリー』を見た。渋谷の東急名画座だったと思う。暗く爽快感のない映画で、暴力の匂いが強烈で、目を丸くして見た。その後すぐに『ドラブル』と『突破口!』も見た。どちらも新宿ローヤルだったと思うが、いくらぼんやりした高校生でも、この監督はすごいぞ、とわかってきた。そして年が明けてすぐ、奇想天外シネマテークで『盗まれた街』(この時の邦題)を見た。この体験も大きかった。
今になって考えてみれば、あのころのドン・シーゲルというのは、ハリウッドのBムービーの良い部分を受け継いだ、ほとんど唯一の生き残りで、だからこそ突出して見えたのではないか。
ドン・シーゲルというと、アクション映画を得意としたハリウッドの職人監督で、代表作は『ダーティハリー』で、クリント・イーストウッドの師匠格、というのが一般的なイメージだろうが、それはじつは全部まちがい、とは言わないまでも、的を射ていない、と今の私は考えている。
21歳でワーナー・ブラザースに就職し、32歳で監督デビューしたドン・シーゲルにとって、『ダーティハリー』は還暦を目前にして監督した29本目の長篇。つまり「後期の代表作」「集大成」ではあっても、これをキャリアの中心に置くのは無理がある。
また、プロデューサーの要請に応えて一定水準の作品をコンスタントに作るのが「職人監督」なのであって、強い反骨精神の持ち主で、無能なプロデューサーの干渉を嫌ってじつに9社を渡り歩いたドン・シーゲルは、「独立独歩の監督」と呼ばれるべきだろう。
そして、イーストウッドの作風には確かにドン・シーゲルの影響が見られるのだが、シーゲルの最大の魅力である(あ、結論を書いちゃった)「人を善悪で峻別しない態度」は、必ずしもイーストウッドに受け継がれていない。
映画秘宝の原稿では、すべての作品に触れる紙幅はとてもなかったので、思案のあげく、いまだDVD化されていない作品からベスト5を紹介して、将来の全体像研究につなげる、という変則的な内容でまとめた。
まずは作品リストを見てほしい。
ドン・シーゲルの監督作リスト
(未)は劇場未公開
1 遙かなる星(1945)短篇
2 Hitler Lives(1945)短篇
3 The Verdict(1946)
4 Night Unto Night(1949)
5 仮面の報酬(未)(1949)
6 抜き射ち二挺拳銃(1952)
7 No Time for Flowers(1952)
8 暗黒の鉄格子(未)(1953)
9 中国決死行(未)(1953)
10 第十一号監房の暴動(1954)
11 地獄の掟(1954)
12 USタイガー攻撃隊(1955)
13 ボディ・スナッチャー 恐怖の街(未)(1956)
14 暴力の季節(1956)
15 殺し屋ネルソン(1957)
16 Spanish Affair(1958)ルイス・マルキナと共同監督
17 殺人捜査線(未)(1958)
18 裏切りの密輸船(未)(1958)
19 グランド・キャニオンの対決(1959)
20 疑惑の愛情(未)(1959)
21 燃える平原児(1960)
22 突撃隊(1962)
23 殺人者たち(1964)
24 犯罪組織(1964)テレビムービー、日本では劇場公開
25 太陽の流れ者(1967)テレビムービー
26 刑事マディガン(1968)
27 マンハッタン無宿(1968)
28 ガンファイターの最後(1969)アラン・スミシー名義
29 真昼の死闘(1970)
30 白い肌の異常な夜(1971)
31 ダーティハリー(1971)
32 突破口!(1973)
33 ドラブル(1974)
34 ラスト・シューティスト(1976)
35 テレフォン(1977)
36 アルカトラズからの脱出(1979)
37 ラフ・カット(1980)
38 JINXED ジンクス(未)(1982)
他に「サンフランシスコ・ビート」「フロンティア」「非常線」「ブレーキング・ポイント」「ミステリーゾーン」「全艦発進せよ!」「西部の流れ者ジェシー・ジェームズ」などのテレビシリーズのエピソードを、15話ほど監督している。
そして、このリストのうち、いまだに見ることができずにいるのが、2, 4, 7, 15, 16 の5本。なかでも15の『殺し屋ネルソン』は、公開当時の評価も高く、何をおいても見たい作品なのだが、いまだに機会がない。公開当時に見たという人はいても、その後どこかで見たという話は聞いたことがないので、プリントが現存するのかどうかすら心配している。
さて、私の考える「DVD化されていないドン・シーゲルの監督作ベスト5」は、この5本である(製作順)。興味があったらぜひ映画秘宝を読んでみてほしい。
The Verdict(1946)
仮面の報酬(1949)
第十一号監房の暴動(1954)
The Lineup(1958)
太陽の流れ者(1967)
このうち『仮面の報酬』と『太陽の流れ者』は残念ながら短縮版でしか見たことがないのだが、『仮面の報酬』はついに米盤DVDが出るというので楽しみにしている(7月31日発売)。
http://www.amazon.com/exec/obidos/tg/detail/-/B000PKG7CK/
投稿時間 : 03:48 個別ページ表示 | コメント (0) | トラックバック (0)
3月16日のエントリーで触れたドン・シーゲルについての原稿だが、6月21日発売の映画秘宝8月号にようやく掲載された。肝心のDVDボックスが発売延期になっていたためだが、これがついに7月18日発売と決まり、原稿も陽の目を見たというわけだ。
ドン・シーゲル・コレクション DVD BOX
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ドン・シーゲルの監督作というのは38本あるのだが(テレビシリーズを除く)、3月の後半は、このうちの見られるものをすべて製作順に見直すという作業に没頭していた。毎日ほぼ2本ずつのペースで、見終わったらメモをとり、気になる部分があれば何度も見直し、自伝や評伝やインタビューの関連記述を読み、要するに1日のうち12時間ぐらいは当時のハリウッド映画のことしか頭の中にないというドン・シーゲル漬けの日々を送っていたのである。
黄金時代のハリウッドの、それもおもに編集室の周辺で修行を積んだだけあって、ドン・シーゲルの映画にはおよそ無駄なショットというものがない。構図やカッティングはつねに的確で、複雑なアクションでも少ないカットであっという間に見せてしまう。予算の制約が強い映画ばかりを撮っていたせいもある。
つまり、ドン・シーゲル作品は、扱っている主題と同じぐらい、叙述の形式が見もので、優れているのだが、さて、そんな映画ばかり半月も見ているとどうなるか?
一段落して、映画館や試写で新作映画に接してみると、これがもう絶望的なまでの壊滅ぶり。叙述が鈍重で、無駄が多く、リズム感がなく、かったるくて、何を見ても楽しめない。
現代の新作にドン・シーゲルと同じことを要求してもしょうがないのだが、それにしても、この「ドン・シーゲル後遺症」の症状は重く、おかげで、ふだんなら充分に楽しめたはずの『ブラッド・ダイヤモンド』だの『ホリデイ』だのといった、それなりの水準の映画ですら、首をかしげながら見るはめになってしまった。
ちなみに、このころ見た映画で、唯一の例外として満足できたのは『ブラックブック』で、これぐらいきちんと作られていれば文句の言いようもなく、さすがはポール・ヴァーホーヴェンと思わされたのだった。
(このポスターは頂き物。さっそく貼っています。ありがとうございます)
投稿時間 : 22:56 個別ページ表示 | コメント (0) | トラックバック (0)
5年4ヶ月前に休刊したウェブマガジン「SFオンライン」だが、その後もずっと読むことができていた全号のバックナンバーが、この6月末をもってネット上から消えることになった。
SFオンライン
http://www.so-net.ne.jp/SF-Online/
創刊から編集に参加し、自分でも多くの記事を書いてきた身としては、ひじょうに残念だし、もったいないと思うのだが、こればかりは仕方がない。しばらくはgoogleのキャッシュでも読めるだろうし、気に入った記事があればぜひ手もとに保存しておくことをおすすめする。また今後、特定の記事を読みたいという人がいれば、個人的にできるだけの対応はするので連絡してほしい。
雑誌がなくなると、紙の雑誌だったら古本屋で探すこともできるが、ウェブマガジンは消失してしまうわけで、おおぜいの書き手やデザイナーや取材させてもらった人々の思い、5年間61号分の足跡が、まるでなかったかのように雲散霧消してしまうのが、なんとも恐ろしく、やりきれないことではある。
紙の雑誌との違いは当初から大きなテーマだったが、その意味では、最後の最後までこちらがメディアの特性に追いつけず、振り回されたような気がする。
SFオンライン時代を思い出すと、楽しかったことも辛かったことも、誇りたいことも謝りたいことも山のようにある。ともに働いた人々、ここで知り合った人たち、そして何よりも読んでくれた人たちに、最大限の感謝を捧げておきたい。
特集と連載の目次
http://www.so-net.ne.jp/SF-Online/back.html
書籍・映画・ゲーム・アニメの全レビュー作品リスト
http://www.so-net.ne.jp/SF-Online/list.html
投稿時間 : 01:48 個別ページ表示 | コメント (0) | トラックバック (0)
6月も終わろうという頃にナンですが、1本だけ大推薦作があるので書いておきたくなりました。
かんかん蟲は唄う(1955)
http://www.nihon-eiga.com/prog/108422_000.html
これは傑作だよ、とむかし教えてくれた人がいて、爾来ずっと見たいと思い続けてきた若き勝新太郎の主演作です。見る機会は絶えてなく、くやし涙に暮れること幾星霜、ついにこの目で見られるときがきました。監督は三隅研次。もちろんテレビ初登場です(あと1回しか放送がありませんのでご注意を)。
三隅研次ではこれもあります。
花の兄弟(1956)
http://www.jidaigeki.com/prog/108410_000.html
鈴木英夫特集は今月でおしまい。
殺人容疑者(1952)
危険な英雄(1957)
社員無頼 怒号篇(1959)
社員無頼 反撃篇(1959)
悪の階段(1965)
http://www.necoweb.com/neco/program/category.php?id=464
WOWOWではこれが気になります。
力と栄光(1933)
http://www.wowow.co.jp/schedule/ghtml/020102001V1.html
スペンサー・トレイシー主演の人間ドラマで、脚本はプレストン・スタージェス。日本初公開。
フリッツ・ラング2本立ても。
口紅殺人事件(1956)
http://www.wowow.co.jp/schedule/ghtml/019862001V1.html
無頼の谷(1952)
http://www.wowow.co.jp/schedule/ghtml/019859001V1.html
「ザ・シネマ」チャンネルでは『ダーティハリー』シリーズのドキュメンタリー特番を放送。初公開なのかな?
ダーティハリー:ザ・オリジナル
http://www.thecinema.jp/channel/content.php?cinema_id=1497
7月の吹替版によるシリーズ一挙放送も楽しみです。
シネフィル・イマジカではこれが日本初公開。
彼女はゴースト(1941)
http://www.cinefil-imagica.com/cgi-local/calsys.cgi?I4470&Z200706
日本では1作目の『天国漫歩』しか公開されていない《幽霊コズモ・トッパー》シリーズの3作目 "Topper Returns" です。監督は職人ロイ・デル・ルース。
カートゥーンネットワークでは、2月に米本国で発売されたばかりの「ティーンタイタンズ」のオリジナル長篇最新作が早くも登場。
ティーン・タイタンズ 東京で大ピンチ!
http://www.cartoon.co.jp/program/cnt200706.html#5
今日放送のこれは、もとになった全4回のシリーズが面白かったので、ジャズ・ファンのみならず広くおすすめです。
疾走する帝王 マイルス・デイビス 菊地成孔のジャズ講座
http://www.nhk.or.jp/etv21c/index2.html
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