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2007年06月28日

 ■ DVD化されていないドン・シーゲル映画ベスト5

 1978年、15歳のときに『ダーティハリー』を見た。渋谷の東急名画座だったと思う。暗く爽快感のない映画で、暴力の匂いが強烈で、目を丸くして見た。その後すぐに『ドラブル』と『突破口!』も見た。どちらも新宿ローヤルだったと思うが、いくらぼんやりした高校生でも、この監督はすごいぞ、とわかってきた。そして年が明けてすぐ、奇想天外シネマテークで『盗まれた街』(この時の邦題)を見た。この体験も大きかった。
 今になって考えてみれば、あのころのドン・シーゲルというのは、ハリウッドのBムービーの良い部分を受け継いだ、ほとんど唯一の生き残りで、だからこそ突出して見えたのではないか。

   


 ドン・シーゲルというと、アクション映画を得意としたハリウッドの職人監督で、代表作は『ダーティハリー』で、クリント・イーストウッドの師匠格、というのが一般的なイメージだろうが、それはじつは全部まちがい、とは言わないまでも、的を射ていない、と今の私は考えている。

 21歳でワーナー・ブラザースに就職し、32歳で監督デビューしたドン・シーゲルにとって、『ダーティハリー』は還暦を目前にして監督した29本目の長篇。つまり「後期の代表作」「集大成」ではあっても、これをキャリアの中心に置くのは無理がある。

 また、プロデューサーの要請に応えて一定水準の作品をコンスタントに作るのが「職人監督」なのであって、強い反骨精神の持ち主で、無能なプロデューサーの干渉を嫌ってじつに9社を渡り歩いたドン・シーゲルは、「独立独歩の監督」と呼ばれるべきだろう。

 そして、イーストウッドの作風には確かにドン・シーゲルの影響が見られるのだが、シーゲルの最大の魅力である(あ、結論を書いちゃった)「人を善悪で峻別しない態度」は、必ずしもイーストウッドに受け継がれていない。

 映画秘宝の原稿では、すべての作品に触れる紙幅はとてもなかったので、思案のあげく、いまだDVD化されていない作品からベスト5を紹介して、将来の全体像研究につなげる、という変則的な内容でまとめた。
 まずは作品リストを見てほしい。


ドン・シーゲルの監督作リスト
(未)は劇場未公開

1 遙かなる星(1945)短篇
2 Hitler Lives(1945)短篇
3 The Verdict(1946)
4 Night Unto Night(1949)
5 仮面の報酬(未)(1949)
6 抜き射ち二挺拳銃(1952)
7 No Time for Flowers(1952)
8 暗黒の鉄格子(未)(1953)
9 中国決死行(未)(1953)
10 第十一号監房の暴動(1954)
11 地獄の掟(1954)
12 USタイガー攻撃隊(1955)
13 ボディ・スナッチャー 恐怖の街(未)(1956)
14 暴力の季節(1956)
15 殺し屋ネルソン(1957)
16 Spanish Affair(1958)ルイス・マルキナと共同監督
17 殺人捜査線(未)(1958)
18 裏切りの密輸船(未)(1958)
19 グランド・キャニオンの対決(1959)
20 疑惑の愛情(未)(1959)
21 燃える平原児(1960)
22 突撃隊(1962)
23 殺人者たち(1964)
24 犯罪組織シンジケート(1964)テレビムービー、日本では劇場公開
25 太陽の流れ者(1967)テレビムービー
26 刑事マディガン(1968)
27 マンハッタン無宿(1968)
28 ガンファイターの最後(1969)アラン・スミシー名義
29 真昼の死闘(1970)
30 白い肌の異常な夜(1971)
31 ダーティハリー(1971)
32 突破口!(1973)
33 ドラブル(1974)
34 ラスト・シューティスト(1976)
35 テレフォン(1977)
36 アルカトラズからの脱出(1979)
37 ラフ・カット(1980)
38 JINXED ジンクス(未)(1982)

 他に「サンフランシスコ・ビート」「フロンティア」「非常線」「ブレーキング・ポイント」「ミステリーゾーン」「全艦発進せよ!」「西部の流れ者ジェシー・ジェームズ」などのテレビシリーズのエピソードを、15話ほど監督している。

 そして、このリストのうち、いまだに見ることができずにいるのが、2, 4, 7, 15, 16 の5本。なかでも15の『殺し屋ネルソン』は、公開当時の評価も高く、何をおいても見たい作品なのだが、いまだに機会がない。公開当時に見たという人はいても、その後どこかで見たという話は聞いたことがないので、プリントが現存するのかどうかすら心配している。

 さて、私の考える「DVD化されていないドン・シーゲルの監督作ベスト5」は、この5本である(製作順)。興味があったらぜひ映画秘宝を読んでみてほしい。

The Verdict(1946)
仮面の報酬(1949)
第十一号監房の暴動(1954)
The Lineup(1958)
太陽の流れ者(1967)

 このうち『仮面の報酬』と『太陽の流れ者』は残念ながら短縮版でしか見たことがないのだが、『仮面の報酬』はついに米盤DVDが出るというので楽しみにしている(7月31日発売)。
http://www.amazon.com/exec/obidos/tg/detail/-/B000PKG7CK/


投稿者 chisesoeno : 2007年06月28日 03:48

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