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2007年02月18日

 ■ ピアノを弾く幽霊

 数日前にこのニュースを読んで以来、何かもやもやして仕方がないのだが、うまく考えがまとまらない。

HMVのニュース記事
http://www.hmv.co.jp/news/article/702070068

 要するに、グレン・グールドの名盤『ゴルトベルク変奏曲』は1955年の演奏なのでモノラル録音であり、現代のオーディオ・ソフトとしてはいささか残念である。そこでこれを新開発のピアノ演奏解析ソフトで徹底的に調べて数値化し、最新鋭の自動ピアノをわざわざグールドが愛用したスタジオに持ち込んで演奏させ、それを5.1チャンネルなどの最新技術で録音したSACDがもうじき発売される――という話。

(ちなみにこのCDのことは、多年愛読しているこのサイトで知った)
「音楽中心日記」
http://www15t.sakura.ne.jp/~andy/diary/diary200702a.htm


 もちろん、音楽に対する冒涜だぁ!とか言いたいわけではないし、記事も「ひとつの試みとして楽しんでほしい」というトーンなのははっきりしているし、煎じ詰めれば単なる自動ピアノのCDでしょ、とも思うのだが、何かすんなり胃の腑に落ちないものがある。

 技術の変化に合わせて名曲・名演を再録音することは、ポピュラー音楽でもよくあることだし、グールドだって『ゴルトベルク~』のステレオ録音を遺している。また、こういうことは、スタジオにこもって、テープ編集を前提に多数のレコードを製作したグールドには、ぴったりの後日談なのではないか、という気もする。
(クラシック音楽にまったく疎い私がなぜグールドを知っているかといえば、実家の両親がよく聴いていたからである)

 それでも何となくもやもやが晴れないのは、結局のところ、演奏者の不在というのが決定的に不気味だから――ではないかという気がしてきた。よくできた蝋人形を見ているような不気味さ。

 それに、例えばこれをそうと知らずに聴かされたら、わからないのではないか? 解析ソフトの能力が限りなく向上して行ったら? 存命の演奏者が密かにこれを使ったら? また、いつの日か、ピアノ以外の楽器も精緻な自動演奏でシミュレートできるようになったら? 『ミントン・ハウスのチャーリー・クリスチャン』を新宿ピットインで再録音したら? などなど、くだらないと思いつつ、いろいろな可能性を考えてしまうのである。

 しかしまあ、ジャズというのは一回性の音楽なので、これをやられたら不気味さはグールドの比じゃないよなあ、と思っていたら、ソフトを開発したゼンフ・スタジオの公式サイトを読むと、次はアート・テイタムのアルバムの発売が決定しているというではないか!

Zenph Studios の公式解説
http://zenph.com/sept25.html

 そして今後もソニーBMGと共同でこの試みを続けていくということで、その次はなんとセロニアス・モンクという声もあるらしい。うひゃあ、それはいったい、どんな顔をして聴けばいいのでしょうか?


「グレン・グールドによるバッハ:ゴールドベルク変奏曲」の再創造(3/21発売)
Amazon.co.jp


投稿者 chisesoeno : 2007年02月18日 23:39

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