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2008年07月08日

 ■ 殺人捜査線

 いよいよ今日の放送が日本初公開となる『殺人捜査線』。1958年の映画なので、じつに半世紀ぶりのお目見えになる。
 冒頭1分、電光石火のバイオレンス・アクションに度肝を抜かれる――という仕掛けは『グランド・キャニオンの対決』と同じだが、『殺人捜査線』のほうが手が込んでおり、何が起きたのかすぐにはわからないほどの凄味がある。

米公開時のポスター

『殺人捜査線』は、サンフランシスコを舞台にした犯罪アクション映画。密輸ヘロインの回収を請け負った殺し屋2人組と、市警察の刑事2人組の対決を、強烈なタッチで描いている。
 もとはといえば1954年から6シーズンも続いた人気の警察テレビシリーズ「捜査線」からのスピンオフ映画で、シリーズ第1話を演出したドン・シーゲルを監督に迎え、のちに『夜の大捜査線』『センチュリアン』といった警察映画を手がける名手スターリング・シリファントが脚本を担当している。

ポスター中央の面通し場面

 原題の「ラインナップ」とは、一列に並んだ被疑者の顔を見せるいわゆる「面通し」のこと。そのシーンや科学捜査の場面、警察専用の電話回線を使った機動捜査の場面などは、最先端の警察の勇姿を紹介する意味があったに違いない。

 1958年当時、コロンビア日本支社が公開をあきらめたのは、その時点ではテレビシリーズが放送されていなかったためだろう。日本ではシリーズ後半が61年に「捜査線」として放送され、64年になってようやく前半が「サンフランシスコ・ビート」の題で放送されたようだ。

 つまり今回の『殺人捜査線』という邦題は、「捜査線」と『夜の大捜査線』にひっかけた上に、いかにも50年代映画らしいシンプルさを感じさせるもので、今どきのごちゃごちゃした邦題(『ザ・ラインナップ 非情の殺人者たち あの密輸ヘロインを奪え!』みたいな)にしなかったWOWOWのセンスに大いに感謝したい。

ポスター上部のコピー

「強烈すぎるし、大きすぎる、テレビには!」「この追跡劇は劇場の大画面で見るしかない!」という惹句からは、これがスピンオフ映画であるということだけでなく、当時の映画とテレビの対決ムードが伺える。じっさいスタンダード・サイズではなく、ヴィスタ・サイズ(1:1.85)の大画面映画として製作された(ヴィスタヴィジョン方式で撮影されたかどうかは不明)。

ポスター中央の名前

 もとは警察ドラマなのに、実質的な主役は殺し屋というあたりが、ドン・シーゲルの真骨頂。偏執的な殺し屋を演じて強烈な印象を残したイーライ・ウォラックの名前が、ポスターでも最上位に。「『ベビイドール』で戦慄のデビューを飾った彼が、今度は殺し屋に!」と書かれている。
 イーライ・ウォラックといえば、『荒野の七人』の山賊の首領や、『続・夕陽のガンマン』の“汚い奴”といった悪党役が最高で、『グッドフェローズ』のジョー・ペシみたいなキレた役柄が得意だったわけだが、それ以前にこんな代表作があったとは驚くほかない。90歳を超えた今も現役で、最近では『ホリデイ』の老脚本家役で元気な姿を見せてくれたのはご存じのとおり。

ポスター右下の名前

 本来の主役であるガスリー警部補ことワーナー・アンダーソンはここに。

 サンフランシスコを舞台に、刑事と殺し屋2人組の対決を描いた、撃ち合いありカーチェイスありのアクション映画――といえば『ブリット』。イギリス出身の俊英監督ピーター・イエーツが、あるいはプロデューサーのフィリップ・ダントニが、この『殺人捜査線』を見たのは間違いないだろう。

 そしてドン・シーゲル自身の『殺人者たち』も『刑事マディガン』も『ダーティハリー』も、『殺人捜査線』なかりせば、まったく違った映画になっていた可能性がある。また、有能な個人と組織の機動力の対決というテーマは、後期の『突破口!』や『ドラブル』まで続く、ドン・シーゲルお気に入りのテーマになっていく。

 こんな映画があったのだ!
 

投稿者 chisesoeno : 2008年07月08日 02:36

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「殺人捜査線」 from 或る日の出来事
WOWOWのラインナップを見ていたら、「荒馬と女」(1961年)でマリリンと共演したイーライ・ウォラックが主演の映画を見つけた。劇場未公開... [続きを読む]

トラックバック時刻: 2008年11月08日 09:51

コメント

はじめまして。今この記事を読んで、初めてドン・シーゲル特集を知りました。見逃してしまいショックです・・・ 再放送とかはないんですかね? そもそもWOWOW見れる環境にないのですが、ドン・シーゲル見るためなら加入しようかなあ・・・

投稿者 ordet : 2008年07月08日 15:20

 こちらこそはじめまして>ordet様。読んでいただき、ありがとうございます。

 WOWOWの場合、再放送は必ずあります。また再放送の要望が多ければ、可能な限り対応してくれるはずです。とりあえず8月の放送はないようですので、9月以降に期待しましょう。

 WOWOWの加入は、視聴環境によって費用が大きく違ってきます。私もデジタル移行がまだなので悩んでいる真っ最中です。いろいろと検討してみて下さい。

投稿者 添野知生 : 2008年07月08日 18:21

添野様

ご返信ありがとうございます。

再放送に期待します。ただ私もまだアナログ環境ですので、考えどころですね。

将来的には「殺し屋ネルソン」なども見れるようになればいいのですが、なかなか難しいでしょうね。数年前私がアメリカで映画を専攻していたときも、「ドン・シーゲルがすごい」と言っても誰も食いついてこないくらい、本国で過小評価されているのが、寂しい限りです。

久しぶりに「白い肌の異常な夜」のDVDでも見て、うっぷんを晴らします(逆に鬱屈するかも)。

投稿者 ordet : 2008年07月08日 23:22

初めまして。本日やっと“殺人捜査線”を観ました。私もドン・シーゲル監督の名はC・イーストウッドの作品でなんとなくかなり以前より聞き慣れていましたが、今回WOWOWが特集するに当たり、初めて意識して鑑賞する様になりました。“グランドキャニオンの対決”といい、魅力的な女優さんが出演しているのも見逃せませんね。シスコが舞台なのも嬉しい。カーチェイスは全く“ブリット”の原型のようです。早速“ホリディ”でのナイスなおじいちゃん役のイーライ・ウォラックを見直さなくてはならないです。

投稿者 EASTPLUM : 2008年07月22日 23:16

 こちらこそはじめまして>EASTPLUM様。お楽しみいただけたようで、紹介した甲斐がありました。とてもうれしいです。

 女優さんというのは、母親役のメアリ・ラロシュという人ですね。たしかに美人で、他にほとんど女性が出ていないこともあって目を引きました。私は、母娘の住んでいるのが、アルフレッド・ヒッチコックの『めまい』に出てくるのと同じアパートだったのが、サンフランシスコ名所めぐりのようで楽しかったです。

 WOWOWにこのあたりの映画が好きな人がいるからこそ実現した企画だと思いますので、今後も楽しみです。

投稿者 添野知生 : 2008年07月23日 09:49

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