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予想は24部門中10部門しか当たりませんでした。4割……ひどいものです!
そして、自分の予想がはずれまくったから言うわけじゃありませんが、今回のアカデミー賞の結果にはいささか、いや、かなり、がっかりさせられました。
かつて『グッドフェローズ』や『カジノ』で達成したことの、形骸化した、迷いの感じられる焼き直しにすぎない『ディパーテッド』。失敗作であっても、それなりに見どころや面白い工夫があるのは、さすがスコセッシというべきで、きらいになれない映画ではあります。
しかし、失敗の主要因である脚色が評価され、脚色賞のオスカーを獲得したことはまったく理解できません。『インファナル・アフェア』という物語の仕組みと美点を理解しないまま舞台を移し、それでいて独自の方向性を打ち出すこともしなかった脚色は、リメイクのあり方としては、もっとも怠惰なものでしょう。
そして、それよりもさらにがっかりさせられたのが、作品賞の結果。
他の4本のどれでもいい、『バベル』でも『硫黄島からの手紙』でも『リトル・ミス・サンシャイン』でも『クィーン』でも、どれが受賞しても、そのことによって、それぞれに意味のあるメッセージを発信することができたのに、それをしなかった。
メキシコ映画の野心作を、アメリカ製の外国語映画を、インディーズの小品を、イギリス人のためのイギリス映画を、ハリウッドは歓迎している、新風を呼び込もうとしているという姿勢をアピールできたはずなのに、もっとも後ろ向きで臆病な選択が勝った、そのことが残念でなりません。
授賞式自体は、うまくいったところといかないところがありましたが、全体に攻めの姿勢が感じられたのは良かったと思います。
司会のエレン・デジェネレスは開巻のトークで、辛辣なギャグに交えてさらりとマイノリティの存在を鼓舞し、一気に会場を味方に付けてしまったのはさすがでした(同性愛をカミングアウトしている人が司会をするのは初めて?)。ウィル・フェレル、ジャック・ブラック、ジョン・C・ライリーによる、コメディアンの哀しみを歌ったステージも最高だったし、スティーヴ・カレルのギャグも、プレゼンターの原稿のなかではピカイチで爆笑してしまいました。ジェリー・サインフェルドの話芸も久しぶりに見られたし、全体にコメディアンのがんばりが目立っていたと言えるでしょう。
映像の部では、脚本家の仕事を紹介する「ザ・プロセス」という短篇が、ナンシー・マイヤーズの編集で、古今のハリウッド映画のなかから作家・脚本家・新聞記者が描かれたものを選び出し、次から次へと短いカットをつないで見せるもので、なかなか面白かったです。もう1本の短篇「ポートレイト・オブ・アメリカ」が、マイケル・マンの編集とは思えないほど散漫なできだったのとは対照的でした。
がっかりしたのは、故人を偲ぶメモリアル・トリビュートの映像で、もっと胸を締めつけるよなものが作れたと思うのですが、例年よりも力のない出来でした。リチャード・フライシャーの代表作に『ソイレント・グリーン』をあげてくれたのは、私はうれしいけどそれでいいのか?とか、今村昌平のところで映像にずっと奥山和由の名前が出ていて、まるで彼が死んだみたいだったとか、いささか雑な作りだと思いました。
トム・クルーズをプレゼンターにして、引退したシェリー・ランシングに友愛賞がおくられたのは、2人を相次いで首にしたパラマウント経営陣に対するハリウッドなりの意思表示なのでしょうが、個人的には、ウィリアム・フリードキンが家庭で「ビリー」と呼ばれていることがわかって笑ってしまいました(ランシングの夫なので)。受賞者の家族といえば、ヘレン・ミレンの夫として、うれしそうなテイラー・ハックフォードが始終画面に映るのも微笑ましかったです。
エンニオ・モリコーネへの名誉賞授与は、クリント・イーストウッドという最高のプレゼンターを得たにも関わらず、釈然としないものでした。モリコーネの音楽を紹介した映像と、続くセリーヌ・ディオンのステージを見ると、あまりにも、情緒的なメロディの書き手としての側面ばかりが強調されており、結局のところ、モリコーネの前衛性はアメリカでは永久に理解され得ないのではないかという気がしました。
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』のテーマ曲に、新たにアラン&マリリン・バーグマンが歌詞を付け、クインシー・ジョーンズのプロデュースで作られたというセリーヌ・ディオンの“新曲”も、私にはどこが良いのかまったく理解できないものだったし、モリコーネ本人がこれを聴いて喜んでいるようにも見えませんでした。
ビル・コンドンが自ら演出したという『ドリームガールズ』の3曲メドレーのパフォーマンスは圧巻でした。ビル・コンドンもギレルモ・デル・トロもそうですが、受賞者がスピーチの中で監督を讃えると、本当にうれしそうだったのが印象的でした。2人とも、この日の受賞結果にがっかりせず、今後も自分の流儀を貫いてほしいです。
とりとめもなく書いてきましたが、じつは私がいちばん感心し、また考えさせられたのは、オープニングの短篇と、それに続く会場の演出です。
短篇はエロール・モリスの演出で、白を背景にしたシンプルな構図のなかに、今回ノミネートされている177人が次々に登場し、何かを言ったり言わなかったりするというもの。菊地凛子と辻一弘の登場がうれしく、人種・国籍の多彩さが目に見える形でわかるのが良かったし、「だけど受賞の栄光に輝くのは一部の人だけ」というペーソスも感じさせて、秀逸な出来でした。
そして、それが終わっていよいよコダック・シアターの会場内に場面が移ると、ノミネートされている人たちが全員、自分の席で立ち上がって、拍手喝采を受けているという演出の華やかさと楽しさ。司会者が登場し、今年はかつてなく国際的で多彩なノミネートになったこと、ノミネートされている人々、全員を讃えることが今年の授賞式の方針であることが示されて、胸が熱くなりました。
前回のエントリーで書きましたが、ノミネートは専門部会で決定され、最終選考は会員全員の投票で決まります。じつは、同業の専門家によって選ばれるノミネートこそが、6000人の多数決によって時の運で決まる受賞よりも、はるかに意味のあることなのではないか? アカデミー賞において、真に重要で、記録として重視されるべきなのは、受賞の成否ではなく、ノミネートされたことなのではないか? 今年の授賞式を見終わって、そんな気が強くしました。
『ディパーテッド』が作品賞や脚色賞を受賞したり、エンニオ・モリコーネが一度も受賞できないまま名誉賞を受けたことは、じつは大して意味のあることではない。マーティン・スコセッシが『レイジング・ブル』や『グッドフェローズ』の時にきちんとノミネートされていること、モリコーネが5回のノミネートを受けていることこそが、後世に残されるべき記録なのではないか?
私自身のアカデミー賞に対する見方は、これから大きく変わっていくような気がします。
投稿時間 : 16:31 個別ページ表示 | コメント (0) | トラックバック (0)
今日はいよいよ授賞式ですが、ここで意外と知られていないアカデミー賞の豆知識~。
■基本は24賞。
賞の数は時代によって増減があるが、現在の賞の数はふつうは24部門。2002年に新設された長編アニメ映画賞がもっとも新しい賞。次に新しいのがメイクアップ賞(1982年開始)。かつては助監督賞とかダンス監督賞なんていうのもあり、その時々の映画の内容によって変化してきたことがわかります。
■ノミネートは専門部会が決める。
ノミネートは専門部会で決定され、最終投票は全会員で行います。専門部会というのは、たとえば監督賞だったら同業の監督たちがプロの眼で選ぶということ。つまりノミネートされるということは、同業者からお墨付きを得たということで、それだけでも大したものなのです。
ただし作品賞だけはノミネートも全会員が投票するのだそうです。
■投票期間は3週間。
今年の最終投票は、1月31日から2月20日までの3週間で行われました。投票用紙を無記名で集計会社に郵送する方式です。
そんなわけで、ノミネートされている映画の配給会社は、この3週間のあいだに会員に自社作品をアピールすべく、最後の力を振り絞って、試写用DVDを配ったり、劇場でリバイバル上映したりのキャンペーンをはるわけです。
■投票する会員は約6,000人。
映画芸術科学アカデミーの会員数は3年前の時点で5,816人という数字が発表されているので、現在は6千人前後と思われる。ちなみに06年に入会を打診されたのは120人だとか。ほとんどがハリウッド映画の製作に関わるスタッフ・俳優なのでしょうが、ノミネートされると外国人でも勧誘されることが宮崎駿のときに判明しました(辞退したが)。
■投票で決まる賞だけではない。
会員の投票で決まる賞以外に、アカデミーの事務局が独自に決める賞が4つあります。これらは毎年あるとは限りません。
近年は無冠の大物に功労賞的におくられることの多い「名誉賞」。
優れたプロデューサーにおくられる「アーヴィング・G・タルバーグ記念賞」。
技術面で貢献のあったひとにおくられる「ゴードン・E・ソーヤー賞」。
人道的な活動で貢献した人におくられる「ジーン・ハーショルト友愛賞」。
■今年の名誉賞はエンニオ・モリコーネ。
モリコーネが一度もアカデミー賞を受賞していないこと自体が、あまりにもバカげていると思うのですが、反省するのに遅すぎることはないということなのでしょう。
先年亡くなったジェリー・ゴールドスミスも、18回もノミネートされながら受賞したのは『オーメン』だけという惨状だったことを考えると、作曲賞には何か問題があるのかもしれません。
■ちがいのわからない賞。
24部門のなかで、いちばん違いのわかりにくいのが、音響編集賞(Sound Editing)と録音賞(Sound Mixing)でしょう。私も何度調べてもなかなか憶えられません。音響編集賞は効果音などを作る「サウンド・エディター」におくられる賞。録音賞はバランスを調整して最終的なサウンドトラックを仕上げる「リレコーディング・ミキサー」におくられる賞。ということだと思います。
■司会者の人選。
授賞式の顔ともいえる司会者ですが、3年前から、新しい人材の試用期間に突入しているように見えます。90年代以降、ビリー・クリスタルとウーピー・ゴールドバーグとスティーヴ・マーティンの回り持ちになっていましたが、さすがに飽きられてきたので、今後の方向性を考えながら、いろいろ試しているということでしょう。
最初に起用されたのはクリス・ロック。スタジアム級の人気を誇るスタンダップ・コメディアンということで、期待どおり危ない人種ギャグが炸裂。見ているほうは面白かったけど、関係者は青ざめてたんじゃないかな。続く去年は政治トーク・コメディ番組のジョン・スチュワート。前年の反動かおとなしすぎて、あまり面白くありませんでした。
そして今年は、人気トーク番組の司会者で、かつてレズビアン告白で騒がれたエレン・デジュネレス。『ファインディング・ニモ』のドリーの声の人ですね。最初の登場場面で何を言うかが見どころになります。
■トークの内容は事前に決められている。
司会者のトークは、もちろん本人を交えて、複数の脚本家が練りに練った原稿が使われるわけですが、プレゼンターの言葉は、基本的にはスピーチ・ライターが全部事前に書いて用意しているもので、だからだいたいにおいて面白くありません。
■歌曲賞は歌った人がもらえるわけでない。
授賞式に華を添えるのが、歌曲賞にノミネートされた曲が歌われるパフォーマンスのステージ。5曲のノミネート曲を、5組の有名アーティストがここぞとばかり力を込めて歌うのが見どころになっています。
が、歌曲賞は曲を書いた人に対する賞なので、自作自演でなければ、いくら熱演でもオスカーは持って帰れないのです。
■短篇映像が楽しみ。
個人的な授賞式の楽しみに、めずらしい映像と凝った編集で作られた短篇映像の上映があります。ノミネート作品を紹介するもの、その年のテーマに沿ったものなど、毎年5分程度のものが2~3本上映されます。編集・演出にはチャック・ワークマンやエロール・モリスといった一流のドキュメンタリー映画監督が起用されることが多く、そのうえ、アカデミーがバックアップするわけですから、最良の素材をふんだんに使えるということで、毎回非常に見ごたえがあります。授賞式を逃すと見られないという意味でも貴重だと思います。
■日本語公式サイト。
あまり知られていないようですが、アカデミー賞には日本語公式サイトがあります。きちんと更新されているし、いろいろ面白いことが書いてあるので、興味のある人は読んでみると良いでしょう。
http://www.wowow.co.jp/oscars/
投稿時間 : 01:12 個別ページ表示 | コメント (0) | トラックバック (0)
いよいよアカデミー賞授賞式まであと2日と迫ってきました。10年以上前から毎年、予想を立てるのが習慣になっているのですが、いちばん良かったときでも的中率6割ぐらいで、なかなか思うように当たりません。
とりそうな作品より、とってほしい作品を選んでしまう。
その年のアカデミー会員のムードの読み違い。
裏目読みのし過ぎ。
といったところが当たらない原因だとわかっているのですが、まったく好きになれない作品を選ぶこともできないし、こればかりは仕方がありません。
それでは今年の予想です。
■作品賞
バベル
ディパーテッド
☆硫黄島からの手紙
リトル・ミス・サンシャイン
クィーン
たしかにほとんど日本人しか出てこないし、アメリカでは見ている人が少ないのだが、現在のアメリカの厭戦気分の高まりに賭けてみたい。
■主演男優賞
レオナルド・ディカプリオ(ブラッド・ダイヤモンド)
ライアン・ゴズリング(ハーフネルソン)
☆ピーター・オトゥール(Venus)
ウィル・スミス(幸せのちから)
フォレスト・ウィテカー(ラスト・キング・オブ・スコットランド)
下馬評ではフォレスト・ウィテカー有利なのだが、彼の演技にピンと来たことがあまりないので、ここは無冠の大ベテランに。
■主演女優賞
ペネロペ・クルス(ボルベール〈帰郷〉)
ジュディ・デンチ(あるスキャンダルの覚え書き)
☆ヘレン・ミレン(クィーン)
メリル・ストリープ(プラダを着た悪魔)
ケイト・ウィンスレット(リトル・チルドレン(原題))
『クィーン』も『ボルベール〈帰郷〉』も見ていないので、メリル・ストリープにあげたいのだが、前評判から考えてこれ以外にはないでしょう。
■助演男優賞
アラン・アーキン(リトル・ミス・サンシャイン)
ジャッキー・アール・ヘイリー(リトル・チルドレン(原題))
ジャイモン・フンスー(ブラッド・ダイヤモンド)
☆エディ・マーフィ(ドリームガールズ)
マーク・ウォルバーグ(ディパーテッド)
歌って踊れる強味を生かしたはまり役。これで受賞して、もっとこういう役を演じてほしい。
■助演女優賞
アドリアナ・バラッザ(バベル)
ケイト・ブランシェット(あるスキャンダルの覚え書き)
アビゲイル・ブレスリン(リトル・ミス・サンシャイン)
☆ジェニファー・ハドソン(ドリームガールズ)
菊地凛子(バベル)
菊地凛子にあげたいのはやまやまだが、今回は相手が強すぎる。
■監督賞
クリント・イーストウッド(硫黄島からの手紙)
スティーヴン・フリアーズ(クィーン)
ポール・グリーングラス(ユナイテッド93)
アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ(バベル)
☆マーティン・スコセッシ(ディパーテッド)
『ディパーテッド』はいいと思わないが、ご苦労さんで賞ということで。作品賞はスコセッシがもらえるわけではないので、あげるならこっち。
あとの賞は駆け足で。見てない映画も多いので、ほとんど山勘です。
■脚本賞
バベル
硫黄島からの手紙
リトル・ミス・サンシャイン
☆パンズ・ラビリンス
クィーン
■脚色賞
Borat
トゥモロー・ワールド
ディパーテッド
リトル・チルドレン(原題)
☆あるスキャンダルの覚え書き
■撮影賞
ブラック・ダリア
☆トゥモロー・ワールド
The Illusionist
パンズ・ラビリンス
イリュージョンVS
■編集賞
バベル
ブラッド・ダイヤモンド
トゥモロー・ワールド
ディパーテッド
☆ユナイテッド93
■美術賞
ドリームガールズ
The Good Shepherd
☆パンズ・ラビリンス
パイレーツ・オブ・カリビアン デッドマンズ・チェスト
イリュージョンVS
■衣装デザイン賞
Curse of the Golden Flower
プラダを着た悪魔
☆ドリームガールズ
マリー・アントワネット
クィーン
■作曲賞
バベル
The Good German
あるスキャンダルの覚え書き
☆パンズ・ラビリンス
クィーン
■歌曲賞
不都合な真実「I Need to Wake Up」
☆ドリームガールズ「リッスン」(ビヨンセのそこまでの我慢が爆発してます)
ドリームガールズ「ラヴ・ユー・アイ・ドゥ」
カーズ「アワ・タウン」
ドリームガールズ「ペイシェンス」
■メイクアップ賞
Apocalypto
☆もしも昨日が選べたら(リック・ベイカーの弟子で日本人の辻一弘がノミネートされています)
パンズ・ラビリンス
■録音賞
Apocalypto
ブラッド・ダイヤモンド
☆ドリームガールズ
父親たちの星条旗
パイレーツ・オブ・カリビアン デッドマンズ・チェスト
■音響効果賞
Apocalypto
ブラッド・ダイヤモンド
☆父親たちの星条旗
硫黄島からの手紙
パイレーツ・オブ・カリビアン デッドマンズ・チェスト
■視覚効果賞
☆パイレーツ・オブ・カリビアン デッドマンズ・チェスト(これはまあ確実でしょう)
ポセイドン
スーパーマン リターンズ
■長編アニメ映画賞
☆カーズ
ハッピー フィート
モンスター・ハウス
■外国語映画賞
Days of Glory(アルジェリア)
Water(カナダ)
After the Wedding(デンマーク)
善き人のためのソナタ(ドイツ)
☆パンズ・ラビリンス(メキシコ)(もう絶対に絶対にデル・トロにとらせたい!)
■長編ドキュメンタリー映画賞
Deliver Us from Evil
☆不都合な真実
Iraq in Fragments
Jesus Camp
My Country, My Country
■短編ドキュメンタリー映画賞
The Blood of Yingzhou District
Recycled Life
Rehearsing a Dream
☆Two Hands: The Leon Fleisher Story
■短編アニメ映画賞
Tha Danish Poet
☆Lifted(効果音の第一人者ゲイリー・ライドストロームの初監督作)
マッチ売りの少女
Maestro
熱血どんぐりハンター!
■短編実写映画賞
小さなビンタ
Eramos Pocos
Helmer & Son
The Saviour
☆West Bank Story
映画芸術科学アカデミーの公式サイト
http://www.oscars.org/79academyawards/index.html
結果の速報はここに出るらしい。
http://www.wowow.co.jp/a_g2007/academy_awards/index.html
投稿時間 : 00:49 個別ページ表示 | コメント (0) | トラックバック (0)
数日前にこのニュースを読んで以来、何かもやもやして仕方がないのだが、うまく考えがまとまらない。
HMVのニュース記事
http://www.hmv.co.jp/news/article/702070068
要するに、グレン・グールドの名盤『ゴルトベルク変奏曲』は1955年の演奏なのでモノラル録音であり、現代のオーディオ・ソフトとしてはいささか残念である。そこでこれを新開発のピアノ演奏解析ソフトで徹底的に調べて数値化し、最新鋭の自動ピアノをわざわざグールドが愛用したスタジオに持ち込んで演奏させ、それを5.1チャンネルなどの最新技術で録音したSACDがもうじき発売される――という話。
(ちなみにこのCDのことは、多年愛読しているこのサイトで知った)
「音楽中心日記」
http://www15t.sakura.ne.jp/~andy/diary/diary200702a.htm
もちろん、音楽に対する冒涜だぁ!とか言いたいわけではないし、記事も「ひとつの試みとして楽しんでほしい」というトーンなのははっきりしているし、煎じ詰めれば単なる自動ピアノのCDでしょ、とも思うのだが、何かすんなり胃の腑に落ちないものがある。
技術の変化に合わせて名曲・名演を再録音することは、ポピュラー音楽でもよくあることだし、グールドだって『ゴルトベルク~』のステレオ録音を遺している。また、こういうことは、スタジオにこもって、テープ編集を前提に多数のレコードを製作したグールドには、ぴったりの後日談なのではないか、という気もする。
(クラシック音楽にまったく疎い私がなぜグールドを知っているかといえば、実家の両親がよく聴いていたからである)
それでも何となくもやもやが晴れないのは、結局のところ、演奏者の不在というのが決定的に不気味だから――ではないかという気がしてきた。よくできた蝋人形を見ているような不気味さ。
それに、例えばこれをそうと知らずに聴かされたら、わからないのではないか? 解析ソフトの能力が限りなく向上して行ったら? 存命の演奏者が密かにこれを使ったら? また、いつの日か、ピアノ以外の楽器も精緻な自動演奏でシミュレートできるようになったら? 『ミントン・ハウスのチャーリー・クリスチャン』を新宿ピットインで再録音したら? などなど、くだらないと思いつつ、いろいろな可能性を考えてしまうのである。
しかしまあ、ジャズというのは一回性の音楽なので、これをやられたら不気味さはグールドの比じゃないよなあ、と思っていたら、ソフトを開発したゼンフ・スタジオの公式サイトを読むと、次はアート・テイタムのアルバムの発売が決定しているというではないか!
Zenph Studios の公式解説
http://zenph.com/sept25.html
そして今後もソニーBMGと共同でこの試みを続けていくということで、その次はなんとセロニアス・モンクという声もあるらしい。うひゃあ、それはいったい、どんな顔をして聴けばいいのでしょうか?
「グレン・グールドによるバッハ:ゴールドベルク変奏曲」の再創造(3/21発売)
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投稿時間 : 23:39 個別ページ表示 | コメント (0) | トラックバック (0)
仕事をしながら横目で見ていただけなので、偉そうなことは言えないのだが。
(1)ディクシー・チックス圧勝の結果には、めちゃめちゃ違和感を覚える。
あれからたった3年しか経っていないのに、自分たちがチックスにした仕打ちを忘れたかのように拍手喝采できる神経がわからない。
(念のために書いておくと、私はディクシー・チックスの音楽はものすごく真っ当なもので、人気があるのは当然だと思っています。個人的にはナタリーよりも彼女のパパの音楽を聴くことのほうが多いけどね)
(2)プレゼンターでアル・ゴアが出て来たのに、誰もブーイングしない。
他の場所ならともかく、音楽業界がティッパーとの戦いを忘れていいのか?
(3)オーネット・コールマンがプレゼンターで登場。
黒に金色の模様の入ったへんなスーツ着用。隣に並んだナタリー・コールより頭ひとつ背が低くかった。スピーチライターの書いたつまらない言葉を言わされていて可哀想でした。
(4)ジェイムズ・ブラウンに捧げたステージで、最後にちゃんとダニー・レイが出てきたのは偉いと思った。泣きそうになりました。
Taking the Long Way (2006)
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投稿時間 : 14:27 個別ページ表示 | コメント (0) | トラックバック (0)
紹介しようかどうしようか、いささかの躊躇があったのは、ひとつにはゲイのセックスをテーマ(のひとつ)にした作品だから。つまり、よく知らないことについて軽々に発言するのはためらわれるということ。もうひとつは、またしてもWOWOWの放送作品ということで、片寄って見えるのではないかということ。仕事の都合上、放送に先立って見ていることが多いので、これはお許し願いたい。
というわけで「ライン・オブ・ビューティ 愛と欲望の境界線」である。英国BBCが制作し、昨年5月に放送した60分×3回のテレビミニシリーズ。日本では本日11日(日)の放送が初公開となる。
公式サイト
http://www.wowow.co.jp/drama/lob/
この美青年3人の水浴び写真を見ただけで、もうダメという人もいるだろうし、うれしいという人もいるだろうが、実際の内容はこの印象よりもずっと複雑で、一筋縄ではいかないテレビドラマである。挑戦的で、非常によくできている、と思う。
数多の文学作品の映像化を手がけてきたBBCだが、これはイギリス人作家アラン・ホリングハーストの同名長篇が原作。2004年のブッカー賞受賞作だが、邦訳はない。まったく知らない作家だったので調べてみると、サマセット・モーム賞受賞作の『スイミングプール・ライブラリー』(早川書房)がかつて邦訳されており、日本でも知名度ゼロというわけではないようだ。
『スイミングプール・ライブラリー』の翻訳者・北丸雄二による言及
http://www.kitamaruyuji.com/dailybullshit/2004/10/post_63.html
翻訳家・宮脇孝雄による原著の紹介
http://www.alc.co.jp/eng/hontsu/book/0504/01.html
物語の舞台は、サッチャー政権下で景気回復の波に乗り、ささやかなバブル景気にわく80年代のイギリス。大学院生でこれから社会に出ようとするゲイの青年ニックの成長と、彼が寄宿することになる邸宅の主人で、保守党の有力国会議員であるジェラルド・フェッデンの野望が、並行して描かれていく。
原作がどうなっているか知らないが、全3回という構成を、それぞれ83年、86年、87年に起きたことをじっくりと描くのに振り分けたのがうまい。脚色を手がけたのは、「高慢と偏見」などBBCで数多くの文学作品を担当し、映画『ブリジット・ジョーンズの日記』も書いた、70歳になる大ベテランのアンドリュー・デイヴィス。
そして、とにかく驚かされるのが、恋愛とセックスの描写の生々しさ。これをテレビで放送したBBCの胆力には敬服するしかない。ゲイの恋人たちの、相手の探し方から、互いのどこに魅力を感じるかの感覚、実際のセックスの次第までが、ノンケでのんきな人間にもきちんとわかるように、ていねいに描かれている。
「ライン・オブ・ビューティ」という題は、吸うために一列にしたコカインのことであり、ニックが書いた原稿の題名でもある。そこには、「美は尽きぬもの」という、ある種の楽天主義と傲慢さの含意がある。
「政治家の家庭に入り込んだゲイの青年」という特殊な物語を描いているようでいて、じつはもっと普遍的な、静かな悲痛さとでもいったものが、全篇を通じて見る者の心に降り積もっていく仕掛けで、見始めると最後まで見ずにはいられない。
もうひとつびっくりしたのは終わり方。ニックと議員の娘キャサリンのその後をめぐって、そこまで張ってきた伏線をわざと回収せず、見る者を中吊りにして終わる。エンタテインメントとして完結することを良しとしない、見る者にバトンを託すようなこのエンディングこそが、このドラマのもっとも挑戦的な部分かもしれない。
音楽ファンにとっては、冒頭のニュー・オーダーに始まって、同時代のヒット曲が多数、さりげなく使われているのも楽しめる。とはいえ最大の驚きは、キンクスの「サニー・アフタヌーン」と、ローリング・ストーンズの「ゲット・オフ・マイ・クラウド」が演奏される場面に尽きるのだが。
投稿時間 : 01:57 個別ページ表示 | コメント (0) | トラックバック (0)
海外テレビシリーズといえば、SFドラマを見るのは当然として、それ以外だと30年来の刑事ドラマ・ファンである。70年代の「刑事コジャック」、80年代の「女刑事キャグニー&レイシー」、90年代の「ホミサイド 殺人捜査課」と、時代と共に先鋭化してゆく傑作を、その時々に楽しめたのは幸せだったと思う。
ちなみに「ヒル・ストリート・ブルース」は巡り合わせが悪くてほとんど未見。「NYPDブルー」も日本で放送された第3シーズンまでしか見ていないので、残念ながらスティーヴン・ボチコについては多くを語れない。90年代だと「刑事ナッシュ・ブリッジス」も好きでしたな。
「ホミサイド 殺人捜査課」というのは本当にすごくて、刑事ドラマも行くところまで行ってしまったという印象があったわけだが、当然のことながら、先鋭化すればするほど、誰もが見て楽しめるというわけにはいかなくなる。テレビシリーズなんていうのは人気あってのものだから、こうなると一度リセットするしかなくなる。
そんなわけで、ある種の揺り戻しというべき「CSI:科学捜査班」が大ヒットして以降の00年代の刑事ドラマには、個人的にはあまり興味がもてず、「ザ・シールド ルール無用の警察バッジ」ぐらいしかまじめに見ていないわけだが……と、長くなったがここまでが今回の前置き。
ちょうどいまWOWOWで再放送されているテレビシリーズ「コールドケース2」は、典型的な「CSI:科学捜査班」以降の刑事ドラマのひとつだが、明日8日(木)放送の第21話だけは、私のような中年ファンにも見逃せない内容。"Creatures of the Night" というエピソード・タイトルからもわかるように、なんと1回をまるごと費やしての、映画『ロッキー・ホラー・ショー』へのオマージュなのだ。
公式サイト
http://www.wowow.co.jp/drama/cold/
「コールドケース」は、過去の未解決事件を再捜査する部署の物語。この回は、1977年の殺人事件に、『ロッキー・ホラー・ショー』を上映中の映画館が関係していたことがわかってくるという展開。それだけでなく、映画で32年前にブラッドを演じたバリー・ボストウィックが、重要な役でゲスト出演している。
刑事ドラマとしては大して深みのない話で、真相がわかる過程にも何のひねりもないのだが、そのぶん徹底して『ロッキー・ホラー・ショー』の引用にこだわっているので、大変なことになっている。回想シーンで内容に合わせて使われる歌の数々、画面合成からテロップのロゴまで似せた凝りようが楽しい。
証人と中年の刑事だけが『ロッキー~』の話で盛り上がっていて、若い刑事には何のことやらさっぱり判らないという場面もおかしかった。脚本家なのかプロデューサーなのかわからないが、スタッフに『ロッキー・ホラー・ショー』の熱烈なファンがいることはまちがいないようだ。
『ロッキー・ホラー・ショー』好きなら必見!
Amazon.co.jp(2枚組)
Amazon.co.jp(通常版)
これを読んだ友人が作ってくれたドットアニメ。
楽しいです。(2007/2/11追加)
投稿時間 : 19:37 個別ページ表示 | コメント (0) | トラックバック (0)
「会いに行く」などと図々しく出ましたが、今回はイベントの紹介です。
「アカデミー・シネマフェスティバル in 丸の内 SFXで観るアカデミー賞の世界 アニマトロニクス展 IT'S ALIVE」(長いよ)という展覧会が、東京駅の真正面、丸ビルの1階で、昨日から始まりました。2月14日(水)までの13日間、入場無料で、映画の撮影で実際に使われたアニマトロニクスを見ることができます。
公式サイト
http://www.wowow.co.jp/79/fes/
展示物は、『帝国の逆襲』のヨーダから『ナルニア国物語 第1章:ライオンと魔女』のアスランまで全21体! といっても、展示用モデルやコンセプト模型も含まれているので、撮影に使われたアニマトロニクスの実物で、内部の機械仕掛けがじっくり見られるものとしては、『マイティ・ジョー』のジョーの右腕と頭部、『リトルショップ・オブ・ホラーズ』のオードリーII、『メン・イン・ブラック2』のエイリアン4体といったところが注目でしょう。
昨日は12時から会場でオープニング・セレモニーが行われ、そのためになんと、リック・ベイカーが来日するというので、鷲巣義明、神武団四郎、殿井君人というこの分野に強い映画ライター諸氏を誘って、急遽かけつけました。
リック・ベイカーの開会の辞は以下のようなものでした。
「イッツ・アライヴ!というこのショーの題名はぴったり合っています。フランケンシュタイン博士がモンスターが動き出したときに叫んだ言葉なんですが、私には彼の気持ちが非常によくわかります。私も同じ経験を何度もしているからです。私の造ったクリーチャーは、肉と骨のかわりにゴムやアルミやファイバーグラスが、筋肉のかわりにロッドやケーブルが使われているわけですが」
「私は自分の仕事がたいへん気に入っています。脚本には通常、クリーチャーの説明はほんの一言二言しかありません。そこですぐに、それがどんな風に見えるのか、頭の中で思い描いてみます。それから、昔はペンと紙を使っていましたが、平面上でコンセプト・スケッチを描き、次に立体モデルを作ってみるわけです。つまり何が言いたいかというと、最初はぼんやりとしたアイデアでしかなかったものが、やがてある日、自分の目の前に座っているわけですね。それが実際に完成し、初めて電源を入れてジョイスティックを操作し、動き出すときの感動は、何ものにも代えられないものです」
「ですから、私と私の友人たちが造ったこれらのアニマトロニクスをご覧になって、同じ感動を少しでも味わっていただければうれしいです」
アニマトロニクスというのは要するに、映画の撮影現場で使われる遠隔操作のロボットのことで、原形をさかのぼればサイレント時代の初期からあるものですが、現在のように複雑で精巧なものが登場し、「アニマトロニクス」と呼ばれるようになったのは、まさにこのリック・ベイカーのような人々が活躍するになった70年代後半以降のことです。
特殊メイクの若き天才として登場したリック・ベイカーは、『狼男アメリカン』あたりからアニマトロニクスを手がけるようになり、まさにその『狼男アメリカン』で、新設されたばかりのアカデミー賞メイクアップ賞を受賞。以降オスカー6個を獲得する大活躍を見せました。
現在のリック・ベイカーは、特殊メイク・アーティストであると同時に、アニマトロニクスを始め、さまざまな特殊効果を手がける工房の代表者でもあります。彼が率いるシノヴェイション・スタジオは、現在ハリウッドで活躍するクリーチャー・エフェクト・スタジオとしては、スタン・ウィンストン・スタジオ、アマルガメイテッド・ダイナミクス、ジム・ヘンソンズ・クリーチャー・ショップ、パトリック・タトポロス・デザイン社などと並ぶ、最大手の工房と言えるでしょう。
今回の展示は、もとはといえば、ロサンゼルスのビヴァリー・ヒルズにあるアカデミー協会の本部で2006年5月に行われた展覧会がもとになっています。
このときは、リック・ベイカーが自分の仕事の中でもっとも気に入っているという、『ハリーとヘンダーソン一家』のハリーも含まれていたのですが、今回はそれが来なかったのは残念でした。
「It’s Alive!: Bringing Animatronic Characters to Life on Film」の解説
http://www.oscars.org/press/pressreleases/2006/06.04.19.html
そのときに展示されたハリーの頭部
http://photos.oscars.org/previewimg.php?photoIDNumber=4477
いずれにせよ、ロサンゼルス以外で巡回展示されるのは東京が初めてだそうなので、この機会にぜひ見ておくことをおすすめします。
午後からは、場所を変えて新聞3紙によるリック・ベイカーへの取材が行われましたが、4時間ほとんど休みなしのインタビューに、つねに誠実に答えている姿が印象的でした。明日4日の読売新聞にイベント告知の全面記事が載るそうなので、楽しみです。
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